症状・症例

ケース20

症例 多発性の頸のヘルニアで歩けなかった症例

犬種:ヨークシャーテリア
年齢:14歳
性別:メス

来院二週間前から少しずつ四肢のふらつきが見られ、歩けなくなってしまったとのことで来院されました。
病院では明らかな痛みなどは認められませんでしたが、特に前足で強い麻痺が認められ、歩くのは難しい状態でした。
意識ははっきりしており、頭よりも首の症状が疑われたため、頸部の画像検査を実施しました。

【MRI検査】
第2-3、3-4、4-5、5-6頸椎部位でそれぞれ軽度~中程度の脊髄の圧迫が認められました。

【CT検査(脊髄造影)】
MRI同様に頸部に多発性の脊髄圧迫が認められました。
また、第2-3,3-4,6-7頸椎では変形性脊椎症が認められました。

【診断】
慢性多発性の頸部椎間板ヘルニア

【治療】
高齢の小型犬では、首の多発性のヘルニアが度々見られ、今回のように麻痺が強くなり、歩けなくなってしまう症例も見かけます。 特にヨークシャーテリアでは後ろ側の頸椎での多発性の脊髄圧迫と骨の関節症が見られ、「ヨーキーウォブラー症候群」などと呼ばれることがあります。
今回の子は高齢で持病として心臓病とクッシング症候群が認められたため、最初は内科治療が選択されました。
内科治療に反応し、一時は歩けるまで改善したのですが、初診後3ヶ月では最初よりも神経症状が悪化、完全に寝たきりの状態となってしまったため、麻酔/手術のリスクはあるものの、手術を実施しました。

〈手術〉
背側椎弓切除術 第3-7頸椎までつなげて実施

■第2病日
少しずつ神経症状の改善が認められ、数秒立つことができるようになりました。

■第6病日
ふらつきはあるものの、自力で歩けるようになりました。

■第9病日
さらに歩き方も改善してきたので退院としました。

■第18病日
自宅に帰ってからも少しずつ歩き方が改善。来院時にはナックリングなどもなく、神経反射もほとんど正常まで改善していました。

【コメント】
頸部ヘルニアは一箇所の場合には腹側減圧術(ベントラルスロット)という手術でほとんどが劇的に改善します。ただし、今回のように多数のヘルニアがある場合、その全てで腹側減圧術を行うことはできません。また、こういう子はほとんどが高齢のため麻酔や手術のリスクも高い事が一般的なため、手術を行うべきかどうかは十分に検討する必要があります。
多発性の頸部ヘルニアで手術を行う場合、二箇所のヘルニアであれば二箇所で腹側減圧術を実施し、術後に骨がずれないように固定を行うことが多いですが、今回のようにそれ以上の場合には背側椎弓切除術という方法を行っています。
背骨の上側の骨を削ることで脊髄の圧迫を緩和させます。
ヘルニア自体を取り除くわけではないので、通常は改善までに時間がかかることが多いのですが、今回は術後すぐから良化が認められ、術後2週ほどでかなり良好に改善してくれました。


【術前】




【術後】