症状・症例

ケース19

症例:慢性椎間板ヘルニアにより、一年前よりふらつきが悪化してきた症例 マルチーズ 10歳 オス

一年ほど前から少しずつ後ろ足のふらつきが認められ始め、その後一年かけてゆっくりとふらつきがひどくなってきたとの事で来院されました。
来院時にはかろうじて歩くことはできるものの、両側の後ろ足のふらつきとナックリング(足の甲を地面に擦ってします)がひどい状態でした。
神経学的検査では腰部痛は認められず、両側の後肢の不全麻痺が認められました。
以上から、慢性的な椎間板ヘルニアなどの腰の神経の異常を疑いMRI/CT検査を行いました。

【MRI検査】
第11-12胸椎部位において、腹側より慢性的な椎間板ヘルニアを疑う占拠病変が認められました。

【CT検査(脊髄造影)】
MRI同様に第11-12胸椎部位において重度の脊髄圧迫所見が認められました。
また、第11−12胸椎体、第12-13胸椎の脊椎に変形性脊椎症が認められました。

【診断】
胸椎部の慢性椎間板ヘルニア(ハンセン2型)

【治療】
犬の椎間板ヘルニアには、急性(通常数日で一気に悪くなる)のハンセン1型と言われるタイプと、慢性(数ヶ月から年単位で悪化してくる)のハンセン2型のパターンがあります。
通常は急性の方が重症化し、救急での検査や手術になることが多いですが、今回のように慢性的な椎間板ヘルニアが長い期間をかけて生活に支障が出るくらいの神経症状(麻痺)を起こすこともあります。
今回は進行していること、神経症状が重いことから、内科的治療で改善が認められないことから、手術を実施しました。

手術:第11-12胸椎 右側より小範囲追求切除術+部分椎体切除術を実施
神経を圧迫している椎間板物質を、下側から骨の一部と一緒に削り取り、除去。神経の圧迫を改善させました。

■第1病日
術後翌日から、すでに神経症状の改善が少し認められ、歩行が可能な状態となりました。

■第7病日
ややふらつくものの、明らかに術前に比べて歩き方は改善し、神経学的な反射もほぼ正常となり、退院となりました。

■第30病日
自宅でもほとんど普通と同じくらいの歩き方ができるようになっており、病院でも異状は認められませんでした。

■第90病日
その後も普通に生活ができ、歩き方の異状は認められませんでした。
レントゲン検査にて背骨の異常も認められなかったため、運動の制限を完全に無くし、治療終了としました。

【コメント】
慢性型の椎間板ヘルニアは慢性的に悪化していき、通常は大きな痛みや歩けないほどの神経症状までに至ることが少ないこと、高齢での発症が多いことなどから、温存療法(内科治療)を行うのが一般的です。
ただし、最近は特に小型犬で今回のような慢性的なヘルニアが比較的に若い時に認められることが多くなり、神経の症状もそれなりに強く出ることもあり、どうしても手術が必要な場合も多くなってきたと思います。
慢性ヘルニアは手術をしてもあまりよくならないことも多かったのですが、最近は部分椎体切除(コルペクトミー)という新しい術式が行われるようになり、慢性的なヘルニアでもとても術後成績がよくなってきました。
当院でも近年は慢性的なヘルニアに対して、内科的な治療でよくならない子には手術を行い、良い結果を多く得られているため、あくまで相談の上ですが、慢性的なヘルニアでも「よくしてあげたい」「これ以上悪くならないようにしてあげたい」という方には今回のように手術をお勧めしています。